TAVI/TAVR (経カテーテル的大動脈弁植え込み術)の最近のブログ記事

Transcatheter Aortic Valve Implantation in Failed Bioprosthetic Surgical Valves. Dvir D, et al. JAMA 2014; 312: 162-170.

TAVI (経カテーテル的大動脈弁植え込み術)の急速な普及と適応拡大に伴い、日本では未だですが、欧米では外科的に植えこまれた生体弁の機能不全 (狭窄や逆流)に対してTAVIを行うことが行われています これに伴い、大動脈弁位の外科的弁置換においては、継続的な抗凝固療法が不要な生体弁を用いた植え込みを行う戦略が広まりつつあります 生体弁は機械弁よりも長期耐久性が劣るため、これまでは高齢者に植え込み、若年者には植え込まないのが外科的な常識だったのですが、それが変わりつつあるのです しかし、この論文はこれに対して重大な警鐘を鳴らすものです

国際的レジストリで、459例の生体弁による大動脈弁置換術不全に対して、TAVIが行われました もちろん適応となった患者さんは92%で NYHA Class III or IVという重症例であり、外科的植え込みからの Median = 9年という母集団でした
これに対して、大きさの異なるTAVI device (SAPIEN or CoreValve)が用いられてTAVIが行われました

結果は驚くべきもので、Large Device (>= 23mm)のTAVI deviceが持ちられた場合の長期予後は良いのですが、Small device (< 20mm)のTAVI deviceでは有意に長期予後が悪かったのです

つまり、小さなdeviceしか用いられなかった場合には、予後が悪いのです ということは、日本人患者さんでよくある 19mmの弁しか用いることができないような状況であれば、生体弁を用いた外科的大動脈弁置換術の妥当性は無い、ということになります この場合にはワーファリンをずっと服薬せねばなりませんが、長期機能が保たれる機械弁を用いて大動脈弁置換術を行うべき、ということになります

正直これは意外な結果でした
Direct TAVI using a balloon-expandable system: a novel technique to eliminate pre-deployment balloon aortic valvuloplasty. Davies WR, et al. EuroIntervention 2014; 10: 248-252.

これは実際にTAVIを術者として行っていないと分からない話だと思いますが、ある意味重要な話題の一つです 現在日本でも保険償還が認められている唯一のTAVIディバイスである SAPIENについての話なのです

SAPIENを大動脈弁に植え込むためには、何しろディバイスが大動脈弁を通過せねばなりません たのめにも、バルーンによる前拡張を行います ところが、バルーンを用いた前拡張の後、希にひどい大動脈弁閉鎖不全が起こり、ものすごく急いでTAVIディバイスを植えこまないと、あっという間に肺水腫となったり心原性ショックに陥ることがあります また、前拡張の時に、硬くなった弁の一部が剥がれて飛んでしまい脳梗塞を起こすかも知れません

このため、以前より特にヨーロッパでは前拡張無しで、直接 SAPIENを植えこむ手技が行われてもきました しかし、現実問題として、大動脈弁狭窄症で非常に狭小化した大動脈弁口を大きなディバイスを通過させることは困難であり、時には通過できずに前拡張を行う、そんな場合もあるようです

そこで、この筆者達は、今まに通過せんとしているが、ステント部分が硬くなった弁にひっかかり通過できない時に、2ml程度を拡張バルーンに注入し、先端部のみを拡張すれば、うまく通過するんだよ、それにより前拡張無しに植えこむことが全例で可能となるんだよ そのように主張しています

もちろん それはそうでしょう ただ、術者としての懸念が二点あります
  1. もしも、2mlで拡張したバルーン先端が硬くなって場合によっては尖っている石灰化に直接触れてバーストしたり、pin holeが開けば、その後のステント留置ができず、結果的にステントのmigrationがおこる可能性がある
  2. 通過させる時に、勢い余ってステント部分も全体が左心室内に落ち込めば、戻す時にステントが広がっていない石灰化弁にひっかかり左室内に脱落する可能性がある
そのように思います また、筆者らはCTで十分にそれは予測できる、と主張しているのですが、我々が前拡張を行う目的の主要部分は
  1. これから植え込もうとするステントのサイズの確認
  2. 植え込んだ時に冠動脈閉塞の危険が無いか そのチェック
という重大な使命があるからです

従って僕はこの方法をやるつもりはありません これまで通りにしっかりと前拡張してからSAPIENを植え込みます
Underexpansion and Ad Hoc Post-Dilatation in Selected Patients Undergoing Balloon-Expandable Transcatheter Aortic Valve Replacement. Barbanti M, et al. J Am Coll Cardiol 2014; 63: 976-81.

この論文はとても実践的な論文です
現在日本で用いられている経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI/TAVR)のディバイスとしては、Edward Sapien-EXしかありません 「しかありません」という言葉を用いましたが、これでもアメリカに先駆けてこの先進的ディバイスを独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)は認可されたのです 感謝感激です

さて、Sapien-XTはとても良い強いステントですが、それが故に、規定の(23mm/26mm)径以上にはまず絶対に拡張されません inflation volumeを増やしても拡張圧が高くなり、石灰化マスを押し広げるだけです これが故に、大動脈基部破裂をきたすこともあるのです

かといって、小さい径のディバイスを植え込んだならば、絶対に大きくならないので、残存大動脈弁閉鎖不全がひどく残ることになります

臨床的には、ジレンマです 大動脈基部破裂は怖いし、かといって小さなバルブを植えれば大動脈弁閉鎖不全や、ディバイスの遊走が起こります

そこで、臨床現場ではこれまで、規定の inflation volumeから 1ml/2ml少なくして拡張し、様子を見る、そのようなことが行われてきました この論文ではこの戦略の妥当性を検証し、YESという回答を与えたのです

とても実践的役に立つ論文で、こんな論文書きたいものです
Prevalence and Impact of Preoperative Moderate/Severe Tricuspid Regurgitation on Patients Undergoing Transcatheter Aortic Valve Replacement. Barbanti M, et al. Cathet Cardiovasc Interv 2014; **:**-**.

この論文は、北米随一のTAVI施設である、Vancouverにある St. Paul病院からの単施設経験です
TAVIの長期予後に影響を与える因子として、従来左室駆出率や、僧帽弁閉鎖不全の存在が言われていますが、この論文では術前の三尖弁閉鎖不全の影響について調べています

  1. TAVIを受ける症例の 15%で moderate/severe TRが認められた
  2. moderate/severe TRを伴う症例では、死亡率が二倍に増加する
  3. しかしながら、左室駆出率低下が死亡率に影響を与える程度と比べると無歯できるものである
というのが結論です

問題点としては、経胸壁心エコーで、TR評価を行うのですが、論文中にもあるように、その程度評価は必ずしも正確では無い、ということでしょう
Comparison of Balloon-Expandable vs Self-expandable Valves in Patients Undergoing Transcatheter Aortic Valve Replacement: The CHOICE Randomized Clinical Trial. Abdel-Wahab M, et al. JAMA 2014; 311: 1503-1514.


これは歴史上最初に公表された、SAPIENと CoreValveの前向き無作為ガチンコ勝負の論文です 実施したのは、ドイツ・ハンブルグにある有名な Segeberger心臓センターからの一施設報告です

従来、後ろ向きには、この2つのTAVIディバイス、まあ典型的なバルーン拡張型と、自己拡張型の比較がこれまでに行われてきましたが、前向きに無作為化しての試験はこれ以外にはありません

ずばり結果は、Balloon-Expandableの方が機器の成功率が有意に高かった (95.9% vs 77.5%)であり、機器の成功率が主要評価項目だったのですから、Balloon-Expandableに方が優れている、という結論となりました

ただし、この直前の New England Journal of Medicineに掲載された CoreValveの US pivotal trialの凄まじい結果 "In patients with severe aortic stenosis who are at increased surgical risk,TAVR with a self-expanding transcatheter aortic-valve bioprosthesis was associated with a significantly higher rate of survival at 1 year than surgical aortic-valve replacement. "  

Transcatheter Aortic-Valve Replacement with a Self-Expanding Prosthesis.

 2014 Mar 29.

の結果を見れば「本当かよ?」と思わざるを得ません そして、僕自身、この両者のTAVIを行っている経験を有する数少ない術者として、信じがたい結果なのです


では何故そのような結果がこの JAMAの論文では導きだされたのでしょうか?
  1. まず、主要評価項目はを、device successとしているから
  2. 次に、臨床評価を植込み後三ヶ月時点でしか行っていない
  3. あまりにもペースメーカー植え込み率が高く、技術的に信用できない
というのが、僕の感想です
1.については、この Device Success率が低い原因として、直後の大動脈弁逆流が含まれ、実はそれが原因で Self-ExpandableではDevice Successが得られなかった症例がほとんどであっのです
2については、そもそも三ヶ月の時点での死亡率などは、両群で同等であったのですが (心血管死亡率 4.1% vs 4.3%)、それより長い期間での結果については触れられていません そもそも術後大動脈弁逆流については、Self-Expandableでは時間経過と共に減少してくる、というのがこれまでの定説です
3.については、Balloon/Selfで 17.3% vs 37.6%という高率でペースメーカー植え込みが行われており、これは異常に高い値です それが意味するところは、弁の植え込み位置が、不適切な可能性がある、ということです

だから僕はこの論文の結果を信用しません
Aortic Regurgitation After Transcatheter Aortic Valve Implantation With Balloon- and Self-Expandable Prostheses. Abdel-Wahab M, et al. J Am Coll Cardiol Intv 2014; 7: 284-92.

日本では現在 SAPIEN-EXという balloon-expandable TAVIしか認可されていません そして、CoreValveという self-expandable TAVIは認可待ち、の状態です 果たしてこのどちらのシステムが患者さんにとって良いのか? それは皆が知りたい命題です

この論文ではドイツの2施設でのレジストリで、5年間に合計で400例足らずを解析した結果です balloon-expandableとself-expandableがだいたい半々でした

一年後の生命予後は、どちらのシステムでも大体一緒でありましたが、術後にmild以上の大動脈弁閉鎖不全が残存した例では予後が悪かった、というのが結論です このシリーズの中では、どちらのシステムでmild以上の大動脈弁閉鎖不全が多い、というはっきりした差異は認められませんでした

我々の施設では CoreValveに関しても植え込んだ経験が多数あります 大動脈弁閉鎖不全に関しては、術後よりも長期になると改善するように思われました いったい日本人の患者さんではどうなのか? それについて明らかにするのは我々の使命の一つでしょう
Comparison Between Different Risk Scoring Algorithms on Isolated Conventional or Transcatheter Aortic Valve Replacement. Wendt D, etl al> Ann Thorc Surg 2014; 97: 796-802.

TAVI (TAVR)あるいは外科的大動脈弁置換術において、治療を行った時に生命予後を予測する点数システムがいくつか開発されてきました 基本的にはこれまで行われた多数の実治療の予後を従属変数として、各種の臨床的独立変数を組み合わせ、判別関数を作成する、という方法で作られてきました その中で、現在良く使用されているのが、EuroScoreと STS Scoreというものです

この世界、そこそこでヨーロッパとアメリカの覇権争いが行われているのですが、例えば日本語で経カテーテル的大動脈弁植え込み術と呼ばれる最新治療、もちろん鎌倉では行っていますよっ! ですが、これの英語呼び名として2つあります。

一つはTAVI (Transcatheter Aortic Valve Implantation)であり、もう一つは TAVR (Transcatheter Aortic Valve Replacement)です。もちろん原義的には、これは弁の入れ替えではなく、単なる植え込みですので、TAVIの方が正しいのです しかし、アメリカでは何故か TAVRが用いられ、ヨーロッパでは TAVIが用いられます さて、日本ではどうでしょうか? 準公式的には TAVRが用いられているようですが、その最大の理由は、経カテーテル的大動脈弁植え込み術を健康保険償還申請する時に、「植え替え」の方が、外科的大動脈弁置換術に近く、保険点数が高くなるのでは? と期待したから、という嘘のような噂があります
また、外科医は、TAVRをTAVIよりも使う傾向があります

さて、そんな中でこの論文では、1999年から2012年に行われた連続 1,512例の外科的単独大動脈弁置換術患者さんと、291例の経大腿動脈的経カテーテル的大動脈弁植え込み術患者さん、そして155例の経心尖部的経カテーテル的大動脈弁植え込み術患者さんに対して、EuroScore (additive/logistic), EuroScore II, STS score, ACEF scoreを計算して、どのスコアが良かったかを調べたものです

結果的には、additive EuroScoreと STS scoreが一番良好に生命予後を良好に予測をしました

まあ結果はこれだけなのですが、ただ、実際に経カテーテル的大動脈弁植え込み術を日本人の患者さんに行っていると、随分と西洋人の患者さんとは異なるのです だから、これから日本人の予測式を作成していかねばなりません それには少なくとも1,000例ぐらいの蓄積が必要でしょう 大変な道のりです
Prospective Multicenter Evaluation of the Direct Flow Medical Transcatheter Aortic Valve. Schofer J, et al., J Am Coll Cardiol 2014; 63: 763-8.


現在(2014年3月現在)日本で保険診療下で使用できるTAVIのディバイスは Edwards SAPIEN-XTしかありません そして、次に使えるようになりそうなのが、Medtronic CoreValveです
やはり、TAVIを実際に行っていて、その劇的な有効性を体験すると共に、とんでもない合併症が起こり得る、ということを知ります また、大動脈弁閉鎖不全が残存することがあるのも難儀です さらには SAPIEN-XTに至っては、一旦植え込みにかかれば、引き返すことができない、というのも怖いものです
Direct Flow MedicalのTAVIディバイスは全く革新的な発想で開発されたものです そもそもの発想の原点が、TAVIの現状ディバイスが有している問題点の大多数は、ディバイスが金属で硬くできていることに起因するのだ、という発想なのです
これに対するアンチテーゼとして、樹脂を用いて柔軟に解剖に追随するような造りなのです
この論文では、ヨーロッパを中心として行われた、Cohort A (訓練フェーズ) 25例 + Cohort B (評価フェーズ) 75例の合計 100例の植え込み結果について記載しています。
期待通り、高い成功率、大動脈弁閉鎖不全発生の低下、回収可能ということが実証されました 早く日本でも使えるようになれば良いですね
Determinants and Outcomes of Acute Transcatheter Valve-in-Valve Therapy or Embolization. Makkan RR. et al. J Am Coll Cardiol 2013; 62: 418-30.

この論文は、PARTNER Trial (米国での SAPIEN TAVI認可のための pivotal trialでした)のデータ解析です。
SAPIENは一度埋め込みに行けば、途中で引き下がることは原則できません。これが CoreValveとは大きく異る点です。この結果、SAPIENが深すぎれば、左室内に落ち込み、浅すぎれば、上行大動脈に飛んで行きます。また、飛ばないまでも、そのことが起因して、大動脈弁閉鎖不全が起こり、これらの結果、そのままもう一つの SAPIENを植えこまざるを得ない事態にもなります。また、時々、SAPIENの弁がきちんとしまらない不全が起こり、重篤な大動脈弁閉鎖不全となってしまい、この結果、再度 SAPIENを植えこまざるを得ないことにもなります。この論文では、これらの Valva-in-Valveや Embolization (SAPIENが外れて飛んでいくこと)を起こした症例の予後を調査した最大級のものです。
2,554例の連続症例の中で、63例 (2.47%)が Valve-in-Valveを受け、26例 (1.01%)がValve Embolizationを起こしました。結果としては当たり前と言えば当たり前ですが、これらを起こした症例の予後はそうでない症例よりもものすごく悪く、特に Valve Embolizationを起こした症例です、1年後死亡率は 50%に達しました。
これらを起こす予測因子としては、施設経験症例数が少ないとか、比較的弁輪径が大きい場合に多い、とされています。
まあ、当たり前の結果でした。
しかし、僕が一番興味を惹かれたものは、患者さんの術前データでした。対象がアメリカ人でありますので、一般的に日本人よりも体格が大きいと考えられ、実際、平均体表面積は 1.8 square metersを超えます。僕らが現在対象としている日本人患者さんでは、この値が 1.4を切り、場合によっては、1.2ぎりぎりとなります。
しかるに、弁輪径は、意外と小さく、平均19 - 21mm (TTE/TEE)なのです。そして、使用された SAPIENも、23mm/26mmだけだったのです。
もっとも、SAPIENには世の中、23mm/26mmしか存在しないらしいのですが・・・
何れにしても患者さんのイメージとしては、日本人患者さんと異なり、体格が大きい割に、弁輪は小さめで、多分バルサルバ洞は大きく、ST (Sino-Truncal) Junction径も大きく、冠動脈の高さは高く、まあ、単純に SAPIENをさっさと植え込んで問題無い症例である、ということなのです。でも、日本人の患者さんに対しては、そうは行きません。もっともっと慎重な手技が必要なのです。

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