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 韓国訪問記-III
はじめに
 今回のPCI訪問は、またまた韓国です。今回は2003年11月9日に成田から仁川(インチョン: Incheon)国際空港に到着しました。ちょうど東京国際空港(羽田)と新東京国際空港(成田)と同じように、ソウルには金浦(キンポ: Kim'po)国際空港とこの仁川国際空港が存在します。仁川沖の島を開発してできた仁川国際空港が開港してからは、金浦空港は国内線専用の空港になりました。しかし、この11月末からは羽田と金浦を結ぶ直行便が一日4便運行されることになり、それぞれの国際空港に出向くためにかかる無駄な時間が随分と少なくなりそうです。
 9日の日曜日はホテルに入ってから夕食を食べただけで終わりました。しかし翌日からはとてもきついスケジュールが始まりました。

11月10日(月曜日)
 この日はソウルのオリンピック・スタジアムやワールドカップ・スタジアムの近くにあるサムソン病院(Samsung Medical Center)を訪れました。
Samsung Medical Center
サムソン病院 (Samsung Medical Center)
 この病院[右写真]はサムソン(三星)グループが所有している病院であり、10年ぐらい前に建設された新しい病院です。サムソン・グループはこのソウルの病院の他にも、釜山の西に位置するマサン(馬山)にも、これより規模は小さいですがSamsung Medical Centerを所有しています。韓国ではそれが当たり前なのですが、このような大きな病院は必ず大学付属病院であり、このサムソン病院も例外ではありません。

 僕が初めて訪れたのはかれこれ7、8年前のことですが、その時には、病院の巨大さ、ホテルのような雰囲気の美しさ、患者さんの多さ、働いているスタッフの多さ、また彼らの礼儀正しさ、その他諸々に圧倒された記憶があります。その時も、PCIを行ったのですが、PCI終了後に病棟を案内して頂いたのですが、その当時から既に、今で言う「オーダリング・システム」が病院内に張り巡らされたLANによって運用されているのを見て、またまたショックを受けました。当時は未だWindows3.1の時代であり、ネットワーク・プログラムは全てサムソン電子グループが開発したものでした。今でもこのシステムは稼働しています。僕自身この病院を訪れるのはこれで5回目ぐらいでしょうか。

 サムソン・グループの会長は日本で大学教育を受け、日本の良い点を積極的に会社の運営に取り入れ、反対に日本の悪い点は否定されている方です。僕は彼が行きつけておられる日本のお寿司屋さんを知っていますが、そのお寿司屋さんに彼は、部下達を引き連れてそれこそ月に二回ぐらい訪れるそうです。そして、部下たちに流暢な日本語で「人生を知ろうと思えば寿司を分かるようになりなさい。」と、言われるそうです。最近の日経新聞によれば、彼の最近の愛読書は、「トヨタ流経営術」だそうです。今、サムソン・グループは韓国内でもっとも成功している会社グループであり、その利益や売り上げはとうに日本のソニーを追い抜いています。

Samsung Medical Center Members
1999年 サムソン病院にて
 それはさておき、このサムソン病院にはPhilipsの心カテ室が二つありましたが、半年前からもう一台のPhilips Biplaneが稼働し始めました。しかしこの最新のカテ室は他の二つより少し離れた場所にあるため、現在はPCIには用いず、電気生理や小児科の心臓カテーテル検査専用に使われているそうです。僕のコンピューターの中にあったサムソン病院での一番古い写真は1999年7月9日に訪れた時のものでした[下写真]。 ちなみにこの写真で僕の右に座られているのがパク(Park JeongEuy : 朴)先生で、左に座られているのがグヲン (Gwon HyeonCheol: 権)先生です。

 当日は朝9:00より夕方4:00までPCIを行いました。例によって慢性完全閉塞病変も三例ありました。薬剤溶出性ステント(DES)に関しては韓国内では健康保険償還が認められていませんので、DESを用いた場合には、DESの費用のみが患者さんの自己負担になります。しかしながら、やはりサムソン病院でもDESの使用頻度が増加しており、現在は全ステント植え込みの50%ぐらいを占めるそうです。この増加の最大の理由が、患者さんおよびご家族が強く希望されるからだそうです。

 サムソン病院の場合、DESの中でCypherが日本円にして360,000円、TAXUSが280,000円だそうです。この価格の差、ステント・サイズの豊富さ、十分な在庫、そして何よりも植え込みの行いやすさから、圧倒的にTAXUSが使われているそうです。

 僕がこの日行った最後の症例は、数年来の左冠動脈前下行枝起始部からの長さ3CMに及ぶ慢性完全閉塞病変の患者さんでした。右TRIで6Fr XBを用いて行いました。僕は基本的にそのカテ室に存在するディバイスのみを用いてPCIを行う主義ですので、その時カテ室内に存在していたCross-it 300により病変をクロスし、最終的に左冠動脈前下行枝起始部から3.5 x 33 mmのTAXUSを植え込んで終了しました。PCIの最中にはGwon先生と英語で会話しながら手技をしているのですが、成功裏に手技を終了し、Gwon先生が患者さんに「外国の先生にして頂いてうまく成功しましたよ」と、ハングルで話しかけられたところ、その患者さんは僕にお礼の挨拶をされました。そして、"Are you an American?"と聞かれましたので、"No, I am a Japanese"と答えました。すると患者さんは流暢な日本語で、「私は、大阪大学工学部の卒業ですよ。」と、話されました。僕の卒業大学も大阪大学であり、これは何という運命の巡り合わせか?と思いました。年齢から推定すると、ちょうど僕が大阪大学に通学していたのと同じ時期にこの患者さんも通学していたものと思われます。きっと、日本で最新の電子工学を学び、母国に帰られてから韓国の発展のために一生懸命働き、その結果がこのサムソン電子の発展であり、韓国の発展に繋がっているのでしょう。

チョンタム・ポクチム
チョンタム・ポクチムで
  その夜はGwon先生の上司で、心エコーを中心として行われているLee先生を交えて、ソウルの赤坂に相当するカンナム(江南)にあるチョンタム・ポクチムというフグ家[右写真]さんで食事をとりました。 ちなみにPark先生は11月10日より開催されていた米国循環器学会(AHA: American Heart Association)出席のために米国に行かれており御不在でした。僕自身は、最近は自分の発表が無い学会にはそれがAHAであろうが行かない主義です。以前は、自ら投稿してAHAでも発表したりしており、その時にはもちろん出席していましたが、もう自分自身で投稿する世代でもなく、若い先生に積極的に投稿するように指示しています。

 ちなみにポクチムの「ポク」というのはフグのことです。そして「チム」というのは家という漢字のハングル読みです。したがって「ポクチム」といのはまさしく「フグ家」さんのことです。ちなみにチョンタクというのはカンナムの中のこのフグ家さんがある地域の地名です。


11月11日(火曜日)
 この日は朝6:15にホテルをチェックアウトして金浦空港に向かい、7:30am発の釜山行きの大韓航空機に乗りました。そしてそのままチムレ病院(Wallace Memorial Baptist Hospital)に行きました。この病院はやはり大きな綺麗な病院[左下写真]であり、4年前に釜山市中心部よりこの地に移転しました。病院の外観は何となくサムソン病院と似ていますよね?

Wallace Memorial Baptist Hospital
チムレ病院
(Wallace Memorial Baptist Hospital)
 これには理由があり、同じ設計者による病院だからなのです。チムレ(ハングルで洗礼者の意味)病院はキリスト教系の民間病院であり、韓国では珍しく大学付属ではない病院です。

チョンタム・ポクチム
チムレ病院(1998年の頃)

チョンタム・ポクチム
キム(Kim JongHyun: 金)先生(左)と
 僕は移転前のまだ狭苦しい病院であった時、ですから1998年でしょうか[右上写真]、に初めてこの病院を訪れ、TRIの手技指導を行いました。それ以来、キム(Kim JongHyun: 金)先生[右下写真]とは長い付き合いであり、今度の訪問が6回目ぐらいになります。

 キム先生は熱烈なTRI信者であり、年間600例ぐらいほとんど一人で行っているPCIの95%以上がTRIで行われています。彼は、僕のことをものすごく慕ってくれています。このため、彼のPCIのスタイルは僕のスタイルにそっくりであり、とにかく素早く患者さんに負担の少ない手技を目指しています。当日も9:30amから合計で14例ぐらいの症例が一台のカテ室で行われましたが、3:30pmには全て終了していました。もっとも、この中でPCIに移行したのは7例ぐらいですが。PCIが終了し、カテ室スタッフ皆とキム先生ご自宅のアパートそばにあるフェッチム(刺身家さん)で夕食を食べました[下写真]

Wallace Memorial Baptist Hospital
チムレ病院のカテ室スタッフ皆と
 キム先生はまだ40歳前の若い先生ですが、非常にバイタリティーがあります。しかし、彼にも辛い日々がありました。韓国の保険制度においては、色々なディバイスを滅菌して再使用することは、その再滅菌自体が違法行為として刑事罰の対象となります。しかし、PCIを行おうと思えば、保険償還されるバルーン、ステント、ガイディング・カテーテル、ガイドワイヤー、造影剤などばかりでなく、保険償還の対象とならない三方活栓、圧チューブ、造影剤ライン、心電図電極、滅菌覆布、トルク・ディバイス、インデフレーターなども必然的に用いる必要があります。これらの価格もバカにならないもので、例えばインデフレーター一つで、PCIの手技料の全てを使い切ってしまいます。これでは、どう考えてもPCIを行えば病院は赤字に陥ります。従って、韓国国内のほとんどの病院においてこれら保険償還されないディバイス類に関しては、再滅菌・再使用をしています。しかし、これも厳密に言えば、違法行為となります。それこそ、Gwon先生が言われるように、韓国のカテ室ではどこもかしこも違法行為を行っている、ということになります。

 実は、キム先生のカテ室では移転後数年に渡り、ガイディング・カテーテル、ガイドワイヤー、バルーンなどを再滅菌・再使用していました。そして、それを保険請求していました。このことが、病院内の人事に不満を持つ人間の内部告発によるものらしいのですが、検察当局に漏れ、彼は刑事告発されました。しかし、このような行為は同じ釜山市内の大学病院全てでも行われていたことであるのを僕は知っています。彼はこの事件により、しばらく不遇な時を過ごしました。2002年初めのことです。そんな時にも僕は彼の病院を訪れ、そして彼と親しく話をし、彼に勇気を与えてきました。彼は精神的にも見事に復活し、現在ではチムレ病院の中でも大きな力を有する管理者の一人になっています。このような事もあり、チムレ病院心カテ室スタッフは家族のようにまとまっています。そして、現在皆で一生懸命英会話の勉強中です。今回訪れた時も、看護師さんやレントゲン技師さん皆が、一生懸命英語で僕に話しかけてきました。今年の鎌倉ライブデモンストレーションには彼らの中から四人が参加して下さるそうです。

 何れにしてもこの事件は韓国国内で大きな反響を呼び、それまで違法請求を行っていた全てのカテ室が違法請求を行わなくなりました。

 ちなみに、日本においては僕の知る限り再滅菌・再使用という行為自体は違法ではありません。しかし、それを保険請求すればこれは詐欺罪であり、完全な違法行為です。

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