Management of Ventricular Tachycardia in the Setting of a Dedicated Unit for the Treatment of Complex Ventricular Arrhythmias: Long-Term Outcomes After Ablation. Dell Bella P. et al. Circulation 2013; 127: 1359-68.

この論文は、2014年の日本循環器学会学術総会にも、特別講演講師として招聘されており、多分世界で一番 心室性頻拍症(VT)に対するカテーテル・アブレーション(CA)を行っていると思われるイタリア、ミラノの Della Bellaのラボからの報告です。このラボでは、 VT Unit (VTU)というものを立ち上げ、積極的にVTに対するCAを行っています。

VTリスクの層別化
Electrical Storm (ES), Incessant VT, Paroxysmal VTの3つに層別化し、さらに、発作時に、血圧低下が起こるか否か、そして、左冠動脈前下行枝に慢性完全閉塞病変がある、慢性腎臓病がある、LVEF <= 30%, 慢性重篤肺疾患があるなどにより VT High Risk群/Low Risk群に分けます

CAの施行
2007年から2011年に連続616例がVTUに入りました。この内 480例ではICDが既に植えこまれていました High Risk VTとされたのは、221例(36%)でした。528例がCAを受け、class A (CA後の誘発でまったくおこらない)は 371(77%)例で、class B(事前に認められたVTは誘発されなくなったが、事前には認められなかったVT/Vfが誘発される場合)は 60(12.4%)例で、class C(事前に認められたVTがCA後も誘発される)は51(10.6%)例で達成された。

VT再発予後
class A/Bの場合、class Cに比較して 60ヶ月のVT再発率有意に改善し、この効果は High/Low Risk両群で認められた

生命予後
class Aの場合、class B, Cよりも、そしてclass Bはclass Cよりも生命予後改善し、これはhigh risk群で著明であった

心室性頻拍症に対してICDを植え込めば生命予後は改善するが、ICDを植えても、そのショックが発生すればするほど生命予後は悪くなると言われている。これに対して、CAが有効であるか否かに関しては、これまでの研究では明らかでは無かった。本研究は優れた施設単独のデータであるが、このような施設でCAを受ければ生命予後も改善することが初めて示された貴重なデータである。
Percutaneous Edge-to-edge Repair of the Mitral Valve in Patients With Degenerative Versus Functional Mitral Regurgitation. Braun D et al. Cathet Cardiovasc Interv 2014 On-line です
以前もとりあげましたが、僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療の一つである、Edge-to-edge Repari (MitraClip)は期待されているディバイスの一つです。しかし、これに対する大規模試験であるEVEREST Trialでは、functional MR (FMR)は除外され、degenerative MR (DMR)のみ対象となりました。何らかの原因で心機能が低下し、これにより左室拡張期容量が拡大し、その結果起こる僧帽弁閉鎖不全は機能性僧帽弁閉鎖不全としてされますが、これによりさらに左心機能が低下する、という悪循環に陥ります。これに対してMitral Clipは有効であるか否か、これは大きな問題です。
ドイツ・ミュンヘンの high-volume centerからの single center retrospective observationです。このディバイスで治療された119名の患者さん(DMR: 72, FMR 47)を比較しましたが、対象とされた患者さんは、EVEREST試験よりも重症の患者さんが多かったようです。全体の成功(MRが一度以上改善)は 83.3%という高い患者さんで得られ、DMR/FMRで差はありませんでした。一年後生存率は、DMRの方が良く、FMR群では、Mitral Clip成功により一旦縮小した左室内径が、一年後には再び増加してくる結果でした。しかしながら、症例数が少なく、またfollow-up率も完璧ではありませんので、結論は徒に急ぐべきではありません。結論としては、FMRに対しても、DMRと同じ程度の成功率が得られる、というものでした。
単純に考えれば、FMRに対して Mitral Clipを行い、僧帽弁閉鎖不全が低下したとしても、根本的な心機能低下を起こした原疾患が改善せねば、再び心拡大が起こる、と考えられますので、FMRに対する根本的治療とはならないのでは? というのが僕の印象です。
本日は 「Saxagliptin and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus. Benjamin M, et al. N Engl J Med 2013; 369: 1317-26. 」という重要な論文です
DPP-4阻害薬は、これまでの血糖降下剤と異なり、マイルドに自然な形で糖尿病患者さんの血糖コントロールを可能とする「夢の血糖降下剤」として華々しくデビューしました。現在日本国内でも3種類ほどの薬剤が臨床現場で使用されてます。その中で、日本でも使用されている Saxagliptinを用いて、本当に DPP-4阻害薬による血糖コントロールが糖尿病の重大合併症の一つである心血管イベント発症を抑制できるか否かを検証した大規模臨床試験の結果です。
対象は、心血管イベント発症のリスクがあると、考えられた Type-2糖尿病患者さん16,492人であり、世界26カ国の788施設で行われました。心血管イベントとは、「心血管死」「心筋梗塞」「虚血性脳卒中」のことであり、「心血管イベント発症のリスクがある」という定義は、Type-2糖尿病、HbA1c >6.5%から12.0%、心血管病既往、血管病発症の複数のリスクがある患者さんの中で、年齢40歳以上で、かつ動脈硬化に関連した臨床症状が、冠動脈、脳血管あるいは末梢血管に認められるものなどでした。これらの、患者さんに対して、DPP-4阻害薬以外の糖尿病治療は、担当医の自由裁量に任される中で、Saxagilptinと偽薬が 1:1 に無作為化されて投与され、2年間経過観察されました。
その結果、驚くべきことに、DPP-4投与群と、偽薬投与群の間では、二年間の心血管イベント発症率に差認められませんでしたが、心不全の発症が DPP-4投与群で多く認められた、との結果となりました。
もちろん、DPP-4の真の効果判定のためには、2年間では短く、少なくとも10年間が必要である、とか、血糖コントロールの仕方が甘かった、とかの批判も出せますが、少なくとも糖尿病のコントロールに関しては、血糖値だけを見ていては臨床的意義が少なく、それ以外の全身的管理が必要であることを示唆する重大な論文でした。
なお、日本で一番最初にリリースされ、また日本国内で一番使われていると考えられる DPP-4製剤である、に関しては、同様の試験が「Trial Evaluating Cardiovascular Outcomes with Sitagliptin」として進行中のようです。
本日は 1:1 Atrial-Flutter, Prevalence and Clinical Characteristics. Beatrice BP, et al. Int J Cardiol 2013: 168; 3287-90です

心房粗動でも1:1電導すれば、その心拍数は非常に早くなり、当然のことながら、失神、心不全などが高頻度で誘起されると考えられ、1:1電導を起こさないに越したことはない、と考えられます。この論文は、 the University Hospital of Nancy, Franceに2000年から2012年に心房粗動に対するカテーテル・カテーテル・アブレーション目的で市入院した連続 1,073名の患者さんを解析し、その中で1:1心房粗動を呈していた患者さんの特徴を抽出したものです。
結果は、1:1心房粗動患者さんでは、来院時に何らかの抗不整脈薬を服薬している割合が高く、年齢も若い方が多かったということになりました。何れにしても、心房粗動に対するカテーテル・アブレーションで入院した患者さんの8%に1:1心房粗動が認められ、カテーテル・アブレーションを行えば、その予後は、1:1でない心房粗動患者さんと変わらなかった、というのが結論でした。あまり fruitfulな内容ではありませんでしたね。
本日の抄読会は、 Rodrigo EV, Olaf F, et al. Echocardiographic and Clinical Outcomes of Central Versus Noncentral Percutaneous Edge-to-Edge Repair of Degenerative Mitral Regurgitation. J Am Coll Cardiol 2013; 62: 2370-7 です

重症僧帽弁閉鎖不全には、いわゆる変性性僧帽弁閉鎖不全 (Degenerative MR: DMR)と機能性僧帽弁閉鎖不全 (Functional MR: FMR)の二種類があります。この DMRに対するカテーテル治療法の一種である、Mitral Clip (最近ではもっと実際のやり方を表現する Edge-to-Edge Repair: 端端修復 という言葉が使われますね) の有効性に関しては、 EVEREST II試験というのがアメリカで行われました。この試験では、DMRに対する治療法としては、Mitral Clipは外科手術に劣るものの、安全性では高かったとされました。しかし、この EVEREST II試験の対象となった DMRは中心性僧帽弁閉鎖不全のみでした。既に ヨーロッパではMitral Clipが認可されており、偏心性 (Noncentral)僧帽弁閉鎖不全に対しても、この Mitral Clipが用いている施設があり、そこからの後ろ向き報告です。
2009/08月より2012/11月までにデンマーク、イギリス、スウェーデンの合計三施設で 79例のDMRに対して Mitral Clipが用いられましたが、non-central MRは、30例でした。
Mitral Clipに習熟すると共にでしょうか、年々 non-central MRの割合が増加し、2009年では10%にしか過ぎなかったものが、2012年には 44%にまで増加したそうです。
結論としては、central DMRに比して、non-central DMRに対する Mitral Clipは同程度の安全性と、中短期の有効性を示すことが確認されました。このため、今後は non-central DMRに対しても、Mitral Clipの適応を拡大しても良いのでは? と提言されています。
本日は Ann Thorac Surg 2010; 90: 1593-8 より 「小児単独心室中隔欠損症治療における、Amplatzerによる閉鎖術と、外科的閉鎖術の比較」 という論文です

そもそもVSD (Ventricular Septal Defect: 心室中隔欠損症)は先天性心疾患としては珍しい病気ではありません。ASD (Atrial Septal Defect: 心房中隔欠損症) に対する治療法としては、 Amplatzerという器具を用いた経カテーテル閉鎖術の有効性と安全性が確立され、外科治療法よりも優先されます。
しかしながら、VSDに関しては、Amplatzerを用いた時の、合併症 (房室伝導障害の発生や、大動脈弁閉鎖不全の発生)、あるいは残存欠損が残ることも考えられ、必ずしても外科手術と比較して優先されてはいません。
この論文は小児心臓外科で有名な、Motreal Heart Institute (CANADA)からの single center experiencesであり、同時期に行われた治療として、37例の Amplatzer経皮的閉鎖術と、34例の外科的閉鎖術が比較されました

結論としては、「カテーテル治療はより大きな、かつ小さな心室中隔欠損症を有する小児患者に用いられるべきである 何故ならば、それによりカテーテル治療法に伴い得る合併症を減らすことができ、かつ低侵襲で治療ができるからである」というものでした。また、併せて 「現状の Amplatzerはまだまだ改良が必要である」とも述べられています。
腎動脈ステント植え込み術 (RAS: Renal Artery Stenting) に関する重大な成績

世界で最も権威がある臨床医学に関しての学術雑誌は、New England Journal of Medicine (俗称 NEJM) ですが、その最新号 (NEJM 2014; 370: 13 - 22)に「動脈硬化性腎動脈狭窄症に対するステント植え込み術と、内科的治療法の比較」という論文が掲載されました。
これは 947名の患者さんを対象として無作為化して比較されました。対象患者さんは、以下の通りです

*動脈硬化性の高度腎動脈狭窄が存在する (その定義は、狭窄度が80%以上かつ完全閉塞ではない、あるいは 狭窄度 60%から80%であるが、圧格差が 20mmHg以上であるもの)
*二剤以上の降圧剤を服薬しても収縮期高血圧を示すか、あるいは体表面積 1.73 m<sup>2</sup>換算でGFR < 60mlで定義される慢性腎臓病がある
*高度腎動脈狭窄の診断は、超音波/MRI/CT血管造影が用いられた

結果はある意味驚くべきもので、腎動脈ステント植え込み術は、内科的治療群と比較して、何の有効性も示さなかったのです。現在、本邦では腎動脈ステント植え込み術が健康保険診療でカバーされることもあり、少しでも腎動脈狭窄が発見されれば、ステント植え込みが行われる傾向にあります。この安易な腎動脈ステント植え込み術実施に対する大きな警鐘となるでしょう。以前より問題となっていましたが、北海道のある診療機関においては、「世界で最大数の腎動脈ステント植え込み術」が行われてきました。このようなことは厳しくチェックされるべきでしょう。

当科においては、これまでも安易な腎動脈ステント植え込み術は実施してきませんでした。あくまでも、他剤降圧剤治療によっても、血圧コントロールがされず、高血圧症の程度がひどい高度腎動脈狭窄症、あるいは進行する腎機能低下を伴う高度腎動脈狭窄症の患者さんのみ治療対象としてきましたので、今回の NEJM論文において対象とされた患者さんよりも厳しい患者さんということになります。