湘南鎌倉総合病院循環器内科 2015年一年間診療実績

2015年一年間で、当科が心臓カテーテル室で行った検査・治療手技総数は4,868件となりました。毎日にならすと一日13.3件ということになりました。ちなみに 2015年実績よりも 212件 (4.6%)増加しました。

これまで循環器内科の花形である、経皮的冠動脈インターベンション (PCI)も大幅に増加すると共に、EVT (EndoVascular Therapy: 血管内治療 -- 下肢動脈や頸動脈病変に対する治療)も前年度より増加しましたが、不整脈に対する治療が大幅に増加しました。また最先端治療法である TAVI/TAVR (Transcatheter Aortic Valve Implantation/Transcatheter Aortic Valve Replacement: 経カテーテル的大動脈弁植え込み術)の件数は着実に増加していますが、大動脈弁狭窄症治療に関しても最先端の治験機器を使用しております。また、当院では手術困難な重症僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療 (MitraClip)も先進的に実施しています。これらを含め、最新医療機器に関する治験件数は着実に増加し、日本における医療の発展に貢献しております。

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経皮的冠動脈インターベンション (Percutaneous Coronary Intervention: PCI)および FFR測定 in 2015年

経皮的冠動脈インターベンションは、循環器領域のカテーテル・インターベンション (Interventional Cardiology)の基本中の基本です。当科がここまで発展できたのも、その PCI の分野でこれまで果たしてきた功績の大きさに依存します。

2015年一年間の実績は、PCI症例数 = 1,025例 (14.3%の増加)でした この内、急性心筋梗塞症例が 120例 (11.1%の増加)でした。これまで最多の年には 1,100例以上行っていましたが、最近は 1,000例前後で安定しています。

PCI症例数が極端に増加しない要因としてはいくつか考えられます。その最大の要因は、優れた薬剤溶出性ステント (Drug-Eluting Stent: DES)の出現でしょう。非薬剤溶出性ステント (Bare-Metal Stent: BMS)の時代と比較して明らかにステント内再狭窄 (In-Stent Restenosis: ISR)の発生頻度が低下していますので、繰り返して PCIを受けねばならない患者さんは減少しました。第一世代の DES (CYPHERやTAXUS)に比較しても現在臨床の現場において、通常診療の中で用いられている DES (Xience-Alpine, Promus-Premier, Resolute-Integrity)は難しい病変に対しても明らかに再狭窄低減効果を示しています。総合的に、この DESの進化により、再治療の必要性は 大きく低下しました。また当科では、数多くの新しい DESの治験を行っておりますが、これらの新しい改良された DESにおいては、さらに良好な成績が期待されます。さらにはここ数年の間に当科で主導的に行われてきた新しいDESに対する治験の中には、Ultimaster, Synergy, BioFreedom, Combo, Onixy, Orsiroなどが含まれます。これらの中には 2015年に既に PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)/MHLW (厚生労働省)により認可された、あるいは認可される見込みのDESも含まれています。また、当科においても行われた Absorb-Extend試験および Absorb-Japan試験でその有効性と安全性が評価された、初の完全生体吸収性スキャフォルドである BVS (Bioresorbable Vascular Scaffold)に関しても、2016年には認可されることが見込まれます。これらの臨床試験/治験でその安全性と有効性が評価された新しい DES/BVSが広くたくさんの患者さんに対して安全に使用されるようになることにより、たくさんの患者さんに対してより優れた治療が行われるものと考えます。

次に大きな要因として挙げられるのは、一次予防と二次予防の徹底ということが考えられます。一次予防というのは、冠動脈病変発症前から、虚血性心疾患を促進すると考えられる因子を除去することです。つまり、いわゆる冠危険因子として挙げられる、高血圧症、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症などに対して、早期から介入 (治療)を開始することです。もちろん、これらの臨床的疾病の治療のみならず、生活習慣の改善 (禁煙の徹底、日常的な適度な運動や、適正な体重コントロールなどなど)も重要です。これらの一次予防により、虚血性心疾患の発症そのものが抑制されてきています。また、冠動脈病変による疾病が発症した後でも、薬剤や生活習慣への介入により、有効な二次予防が徹底されてきています。これにより虚血性心疾患の再発率も低下してきています。

さらに臨床現場心臓カテーテル室では、FFR (Fractional Flow Reserve: 冠血流予備量比 とか 心筋血流量予備比 とか訳される)を測定しています。その総数は 2015年一年間で536例でしたが、これによりPCIが不必要な患者さんに対して不要なPCIが行われたり、本当は必要な患者さんに対してPCIが行われない、という事態を可能な限り排除しています。

これら全ての要因は、喜ばしいことです。僕自身 1981年に初めて PCI (当時は PTCA: Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty と呼んでいました)を行ってきてから既に30年以上が経過しましたが、そのような自分の人生を振り返っても本望です。これはもちろん患者さんの立場で考えて、とても喜ばしいことであり、循環器医学の虚血性心疾患に対するささやかな勝利の証でしょう。

とはいうものの一時期少し落ち込んでいた治療症例数ですが、実はこれには様々な外的要因があったのです。今でこそ語ることが許されますが、例の「**事件」の影響が大きくのしかかったのです。その影響でご紹介頂く患者さんの数が減り、それが結果的にPCI症例数の低下につながりました。私達はこの社会からの制裁に対して、循環器内科医師・コメディカルスタッフの一同力を併せ、病気で苦しむ患者さんのために正しいと信じられる医療を行い続けようと誓いました。この決意は次第に皆様方、そしてご紹介して下さる先生方にも徐々に伝わっていったものと信じます。この結果、2015年になり、患者さんの数は大幅に増加しております。これからも宜しくお願いします。

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血管内治療 (EndoVascular Therapy: EVT) in 2015年

PCIに比して EVT、特に下肢動脈に対する EVTは増加傾向にあります。この最大の理由は、本邦において慢性腎不全患者さんに対して世界に誇るべき治療が腎臓内科医によって行われていることが挙げられます。日本においては慢性腎不全に陥り、慢性血液透析が必要となった患者さんも、腎臓内科医を中心としたチームのケアにより、世界に冠たる良好な長期治療成績が成し遂げられています。しかしその一方で、合併症としての特に下肢動脈硬化による、末梢動脈疾患の合併が問題となります。

EVTの対象は、下肢動脈 (腸骨動脈・大腿動脈・膝窩動脈・前脛骨動脈・後脛骨動脈)の病変のみならず、腎血管性高血圧症を引き起こす腎動脈狭窄症や、鎖骨下動脈狭窄症そして、脳梗塞の原因となる内頚動脈狭窄症も対象となります。当科では2015年一年間で、下肢動脈 EVT =246例(10.8%増加)、内頚動脈 EVT = 6例、腎動脈 EVT = 18例、鎖骨下動脈などに対する EVT = 4例の合計 278例(13.5%増加)に対して EVTによる治療を行うことができました。神奈川県下でも有数の症例数を有しております。

当科においては、部長の松実が中心となって精力的に治療に当たっています。閉塞性下肢動脈硬化症 (ASO: ArterioSclerosis Obliterans)は、特に膝下動脈の病変による重篤な下腿の潰瘍や壊疽などの重症下肢虚血 (Critical Limb Ischemia)が問題となります。ここで重要なことは、循環器科医師、形成外科医師、腎臓内科医師、外科医師、糖尿病内科医師、看護師、理学療法士、ケースワーカー、管理栄養士、臨床工学士、放射線技師などからなるチームで一人の患者さん、そして重症下肢虚血に晒され壊死・切断の危機にある下肢を救うというアプローチが必要です。このようなチームをフット・ケア・チームと呼びます。当院では神奈川県下でも有数のフット・ケア・チームを形成しており、Critical Limb Ischemiaへの診療にあたっております。当科では、院内各部署と緊密に連携し、フット・ケア・チームに携わっております。

当科においては、Critical Limb Ischemia における膝下動脈病変に対するEVTも積極的に施行しております。適切な薬物療法と併せて、冠動脈インターベンション (PCI) で培った技術をいかしてEVTを施行しており、救肢への大きな寄与をしております。下肢動脈硬化病変による症状としては、他にも、腸骨動脈や浅大腿動脈病変による、間歇性跛行(歩いて暫くすると、ふくらはぎが痛くなる、または重くなるといった症状)がありますが、これらに対しても、かつては外科的手術療法(バイパス術)でしか治療の出来なかった病変が、治療技術の向上とともに大多数の症例がEVTで治療可能となってきました。もちろん、外科的治療が望ましい症例もありますので、EVTとバイパス術を併用したハイブリッド治療も含め、外科医との緊密な連携のもと診療に従事しております。また、最近では体表エコーを併用したEVTを施行しており、成功率の向上、手技時間の短縮、被曝量の低減が得られております。

内頚動脈ステント植え込み術 (Carotid Artery Stenting: CAS) においては、ほとんどの症例において Mo-Ma (proximal protection) やフィルター (distal protection) による遠位塞栓保護を併用し、合併症の低減を行っております。

また下肢動脈に対する薬剤溶出性バルーン拡張術 (Drug-Eluting Balloon Angioplasty: DEB)の治験も行っております。浅大腿動脈の治験は終了し、現在は膝下血管に対する治験が進行中です。他、腎臓内科と協力し、先進医療である再生治療(CD34陽性幹細胞移植)や透析膜の治験なども施行しております。

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カテーテル・アブレーション (Catheter Ablation: CA) in 2015年

心臓疾患の中で不整脈は大きな分野を占めます。不整脈に対するインターベンション治療は、長く徐脈性不整脈に対するペースメーカー植え込み術に限定されてきました。そして、頻脈性不整脈に対する治療法として循環器内科医が有していた手段は薬物療法しかありませんでした。これに対して、1990年頃より、カテーテルにより、頻脈性不整脈の発生箇所を直接処置して治療するカテーテル・アブレーション (Catheter Ablation)が行われるようになりました。発生箇所では局所的に微小回路が形成され、刺激が短い周回回路を無限に周回し、これにより頻脈が発生するのです。この周回回路に対して何らかの方法でカテーテル先端からエネルギーを与えることにより、この周回回路を停止させるのです。これを実際に行うためには、(1)周回回路の場所を同定する (2)その部位に効率的にエネルギーを与え回路を破壊する ことが必要です。(1)のために不整脈循環器内科医は、カテーテル電極を用いて、心臓内の各所を正確に測定し、微妙な心電図の伝達時間差から異常な回路の部位を同定します。そして、その部位にエネルギーを与えるのですが、これには歴史的に (A)直流電気ショックを与える (B)高周波電流を通電し、熱エネルギーを局所に与える という2つの方法があり、当初は直流電流通電 (DC Shock)が主流でしたが、治療の安全性とエネルギー・レベルをコントロールし易いために、現在では高周波電流通電 (RadioFrequency: RF-Ablation)が用いられています。またこれ以外にも、Cryo-ablation (マイナス100度以下に冷却して組織固定する方法)も時に用いられますが、冷却する方法としては、熱電対を用いる方法も一時試みられましたが、やはり冷却効果が弱いため、現在では液体窒素などを用いる方法が使われます。しかし、液体窒素が万が一にでも漏れてしまうと如何に危険な事態となり得るか? それを考えればなかなか難しそうですね。また、一部では超音波を用いたり、レーザーを用いたりする方法も試みられています。

当初カテーテル・アブレーションが対象としていた疾患は、副伝導路を有する頻拍性不整脈である発作性上室性頻拍症 (Paroxysmal SupraVentricular Tachycardia: PSVT)が主流でした。特に WPW症候群に伴う発作性上室性頻拍症はその治療成功率の高さと、劇的な改善効果により以前はもてはやされましたが、すぐに対象患者さんの多くが根治されてしまい、時々救急現場を訪れる以外はあまり臨床現場で見られなくなりました。その次に治療対象となったのは、心房粗動でした。これに対しても、心房を線状焼灼 (高周波電流通電により加熱して異常回路を変性させることを、「焼灼」と言います)することにより劇的に治癒されることが分かりました。これらの頻拍性不整脈に対するカテーテル・アブレーションの治療効果は既に確立されていると言って良いでしょう。

次いで不整脈循環器医師の目標となったのは、生命に危険を及ぼす心室性頻拍症や、生命の危険は無いものの、日常生活が阻害される頻発性心室性期外収縮でした。ある種の心室性頻拍症に対しては、カテーテル・アブレーションは非常に有効な治療効果を及ぼしますし、多くの頻発性心室性期外収縮に対しても有効性を示します。

不整脈循環器内科医にとっての現在の主な目標は、発作性心房細動あるいは慢性心房細動に対するカテーテル・アブレーションです。心房細動の存在は、大きな障害を誘発し得る心原性塞栓症の原因となり得るため、心房細動に対するカテーテル・アブレーションは臨床的に重要です。心房細動に対するカテーテル・アブレーションの治療成績は年々向上し、現在では心房細動停止率が80%以上に達しています。

当科では、村上正人医長を中心とした不整脈チーム(和田匡史医師、水野真吾医師、倉田征昭医師)が、カテーテル・アブレーションを行っております。2015年一年間でカテーテル・アブレーション治療総数は 508例(11.4%増加)に達しました。この内心房細動に対するカテーテル・アブレーションは 334件でありました。これは関東圏内でも、有数の不整脈治療施設であることを意味します。

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経カテーテル的大動脈弁植え込み術 (TAVI/TAVR) in 2015年

大動脈弁狭窄症という弁膜症は、昔は溶連菌感染症 (扁桃腺炎などが有名です)に引き続いて免疫反応の結果引き起こされるリュウマチ熱が原因として主因でした。しかし、現在では溶連菌感染症に対して、早期に抗生物質投与することにより、適切に治療が行われるため、それに引き続いて起こるリュウマチ熱の発生そのものが著しく低下しています。これに伴ってリュウマチ熱に基づく心臓弁膜症は発生そのものが無くなってきています。次の大動脈弁狭窄症の原因として挙げられる先天性大動脈二尖弁は、常に一定頻度で発生しております。この結果、先天性二尖弁による大動脈弁狭窄症は一定頻度あり、最近でも有名な芸能人がこのために大動脈弁置換手術を受けたそうです。

一方、先進国において、平均寿命の延長に伴う平均年齢の高齢化に伴い急速に増加しているのが、動脈硬化性大動脈弁狭窄症です。患者さんの多くは 80歳前後であり、重症大動脈弁狭窄症のために、日常生活が著しく阻害されているものの、それ以外ではしっかりとした社会生活を送られています。このような症候性重症大動脈弁狭窄症の生命予後は著しく悪く、二年生存率が 50%程度とされており、ある意味で手術不能な悪性腫瘍よりも生命予後が悪い、とも言われています。これらの重症大動脈弁狭窄症に対しても、外科的大動脈弁置換術を行えば生命予後が改善されることもこれまでに明らかとなっております。従ってこれらの患者さんがおられれば、いたずらに内科的治療で引き伸ばし、有効な治療の時期を失する前に外科的大動脈弁置換術を行うべきです。

しかしながら、動脈硬化性重症大動脈弁狭窄症患者さんは、高齢のために、多くの合併疾患を伴うことが多いのが現実です。例えば、手術すれば根治することが可能と考えられる悪性腫瘍があるが、重症心臓病の存在のために手術できない。あるいは、かつて胸部に対して放射線治療を行ったことがある、あいるいは過去に冠動脈バイパス手術を受けたことがあり、再開胸を伴う外科的大動脈弁置換術に大きな危険を伴う。さらには、慢性閉塞性肺疾患 (慢性気管支炎や肺気腫など)がある、あるいは間質性肺炎があり、全身麻酔が必要な外科的大動脈弁置換術がためらわれる。また、脳梗塞の存在や脳梗塞の危険性が大きいためやはり外科的治療がためらわれる。このようなことが臨床の現場では多く遭遇されます。このような場合、これまでは有効な治療を打てなかったのが現状でした。

しかし、2002年4月16日フランスにおいて、Dr. Alain Cribieによりこのような患者さんに対して人類で初めて経カテーテル的大動脈弁植え込み術 (Transcatheter Aortic Valve Implantation/Replacement: TAVI/TAVR)が行われ、一人の重症大動脈弁狭窄症の患者さんの命が救われました。これが今に至る TAVI/TAVRの歴史です。

現在世界的に用いられている TAVI/TAVR (そもそもこの2つの言葉の使い分け何でしょうか? 実は全く同じ意味なのです。ヨーロッパでは TAVI > TAVR、アメリカでは TAVI < TAVRが用いられる傾向にあり、また、循環器内科医は TAVI > TAVRを好み、心臓外科医は TAVI < TAVRを好む傾向にあります)としては、バルーンでステントを拡張する人工生体弁付きステントである SAPIEN-XTという名前のものと、人工生体弁付きステントではあるが、形状記憶合金製なので、自己拡張型ステントである CoreValveという名前のものの2つのデバイスがあります。当科は CoreValveの日本国内治験実施施設4施設 (湘南鎌倉総合病院、大阪大学、国立循環器病センターおよび埼玉医科大学)の中の一つであり、2012年初めより TAVI/TAVRを行ってきました。また、2013年10月01日からは、厳しい施設認定をクリアした施設においてのみ、健康保険診療下での TAVI/TAVRを行うことが認可され、当科も当初よりその認定施設の一つであります。現在のTAVI/TAVR実施認定施設は、経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会ホームページに公開されています。

さて当科では、2015年12月末日までに当科において、治験での実施、倫理委員会認可の下での医師個人輸入による実施、および保険診療下での治療全て含め 143例に対して TAVI/TAVRを行いました。TAVI/TAVRの実施に当たっては、循環器内科医のみならず、心臓外科医、血管外科医、麻酔科医、心エコー実施医、看護師、放射線技師、臨床工学士、理学療法士、コーディネーターなどの専門職種によるハートチームの形成が不可欠です。これは、非常に重症の患者さんに対して複雑で劇的な治療を成功裏に甘遂するためには、一人の力ではなく、全員の力が必要なのです。この意味で、これまでの PCIのように一人の Super Starがいれば治療が完遂する、というものとは全く異なります。当院においては、すばらしいハートチームが作られ、円滑に治療が遂行されています。

また当科では、より安全性と有効性の高いことが予想される新しいTAVIディバイスに関する治験に 2015年より取り組んでおります。その中には先進的な TAVIディバイスである Lotus Valveも含まれています。Lotus Valveはこれまで治療困難であった大動脈弁狭窄症患者さんも安全に治療を行うことができる可能性を秘めたディバイスであります。また、大動脈弁狭窄症に対する治療のみならず、重症僧帽弁閉鎖不全に対する新たな医療機器である MitraClip、そして心房細動に伴う塞栓症予防のための新たな医療機器である Watchmanに対する治験にも次々と取り組んでいく予定です。これらの先進的な医療機器を早く患者さんの下に届けるため、私達はこれからも頑張っていくつもりです。このように当科は日本国内でも大学病院を含めた他の医療機関では行い得ない最新の治療法に取り組んでいる最先端組織です。困難な心臓病に悩まれている患者さんのみならず、日本の医療を改革しくことを目指されている若い医師あるいはコメディカル・スタッフも一緒に頑張っていきましょう。新しい人々が参加されることを歓迎します。

当院では、毎週水曜日午後2時から大動脈弁狭窄症外来(通称 AS外来)を設けております。 もしくは、齋藤滋医師・山中医師・宍戸医師・落合医師の外来でも対応させていただいております。 大動脈弁狭窄症でお悩みの患者様がいらっしゃいましたら、我々湘南鎌倉総合病院ハートチームにご相談ください。

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ペースメーカー/CRT/CRTD/ICD植え込み in 2015年

不整脈デバイスの植え込み術は、1958年に徐脈性不整脈に対するペースメーカー植え込み術より始まりました。以後、小型化が進み、現在は循環器内科医師が手術を行っています。又、致死性頻脈性不整脈に対する植込み型除細動器 (Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)、重症心不全に対する心臓再同期療法デバイス (Cardiac Resynchronization Therapy: CRT) も本邦で導入され、当科でも全体的な症例が増加傾向です。以前は施行できなかったMRIの撮影も可能な機種もあり、自宅に居ながら機器のチェックを自動で行ってくれる、遠隔モニタリングも積極的に導入しております。症例に応じて手術時間は前後しますが、ペースメーカーおよびICDは1~2時間で、CRTは2~4時間で手術は終了し、又、当院では静脈麻酔による全身麻酔下で手術を行っております。

心臓は、刺激伝導系と云った回路を電気が流れることで、働いております。この回路が加齢などの原因で断線してしまい、脈が遅くなった状態が徐脈と云います。徐脈により、失神などの症状、心不全を来すことがあるため、外部から電気的な補充を行い、脈を正常まで戻す機器がペースメーカーです。症例に応じて異なりますが、静脈を通してリード(電線)を2本入れ、本体と接続したものを体内に植え込みます。

植込み型除細動器 (Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)とは、重症の頻脈性不整脈に対し、除細動(電気ショック)を与えることで正常の脈に戻し、突然死を予防する機器です。街中にある、自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator: AED)の小型版と云うイメージです。植え込む機器はペースメーカーを大きくしたもので、ペースメーカーとしての機能も備えています。重症心不全や脈が速くなる頻脈性不整脈の患者さんは、不整脈による突然死を来すことが多く、その予防に貢献しております。

心臓再同期療法デバイス (Cardiac Resynchronization Therapy: CRT) とは、刺激伝導系の一部が断線することにより、心臓の電気的な障害を是正する機器です。電気的な障害が短期間続くことでは心臓の機能までは障害されませんが、長期的に続くと重症の心不全まで至ってしまいます。そのような患者さんに、通常よりも1本多く電線を入れることで、電気的な障害を改善し、ひいては心臓の機能まで改善させることが可能です。残念ながらどのような症例にも効果がある訳ではないですが、当院ではガイドラインを遵守し、75%の症例で改善を認めております。尚、CRTはペースメーカー機能のみのCRT-Pと除細動機能を併せもったCRT-Dの2種類があり、症例および患者さんの希望に合わせて、手術を行っております。

ジェネレーター交換などの総ての手技を含め、2015年一年間で210例(13.5%の増加)に対して行われました。新規移植症例は135例(17.4%増加)で、ペースメーカーが107例、植込み型除細動器 (Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)が13例、心臓再同期療法デバイス (Cardiac Resynchronization Therapy: CRT)は15例の内訳でした。

臨床試験にも積極的に参加しており、主にCRTの機能やリードの試験を行っております。また、今後は抜去が必要となったデバイスに対して、エキシマレーザーも導入を検討しております。

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治験への取り組み in 2015年

当科は循環器領域の治験、特に医療機器関連の治験に過去 10年間以上に渡り積極的に取り組んできました。医薬品の治験はきちんとした診療を行っている医療機関であれば行うことが可能です。しかしながら、医療機器関連の治験は、どの施設でも行い得るものではありません。当該医療機器の性能、有効性、安全性評価のためには、前提としてその医療機器を適切に使用することができねばなりません。このためには、当然のことながら医療機器に対する治験を行った経験の無い施設よりも優れた医療技術と経験が必要なのです。

なぜ私達は医療機器治験を積極的に行うのでしょうか? 私自身その理由を挙げましょう (1)何よりも最新の改良された優れた医療機器を患者さんに提供できる可能性があるから (2)場合によっては、治験を行うことにより、最新の医療技術を患者さんに提供できる可能性があるから  (3)治験を実施している時には、その医療内容が監査されることにより、標準的な医療実施環境を保つことができる (4)治験実施の過程で、さまざまな国内外の著名な研究者・医師と交流を図ることができ、これにより当科の医療レベルを向上することができる などなどでしょうか。

- これの良い例が、完全生体吸収性薬剤溶出性ステント (Bioregredable Vascular Scaffolding: BVS)治験および、国際共同臨床試験への参加、TAVI (CoreValve, Lotus Valve)による重症大動脈弁狭窄症患者さんの治療、そして手術困難な重症僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療(MitraClip)の実施を挙げることができます。

2015年に実施した医療機器関連治験は、冠動脈に対する薬剤溶出性ステントに関して 3件、冠動脈アテレクトミー1件、下肢動脈に対する薬剤溶出型バルーン治験が2件でした。2015年にはこれらに加え、大動脈弁狭窄症に対する新たな医療機器、僧帽弁閉鎖不全に対する新たな医療機器そして心房細動に伴う塞栓症予防用医療機器などの、新たに日本人の患者さんが恩恵を被るであろう高度な医療機器に対する治験を行うことも見込まれています。これらの治験の中には国際協同で行われた/行われている治験も含まれています。国際協同治験においては、英語でのやり取りのみならず、日本の監督官庁のみならず、諸外国の監督官庁からの監査も受けますので、より国際的な標準に沿った治療が行われ、その成果は日本人の患者さんのみならず、世界中の患者さんに還元されます。

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