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 インド訪問記-II
はじめに
Map
今回の訪問地
 今回は本年二回目のインド共和国訪問の話です。今回は2003年11月13日にソウル・インチョン空港からバンコク経由でインド亜大陸西に位置するインド共和国随一の豊かな港湾貿易都市ムンバイ(Mumbai)に入りました(地図の青○) 。ムンバイは、以前はボンベイ(Bombay)と呼ばれていましたが、この呼び名はイギリス占領時代の呼び名であるため、インド本来の呼び名、ムンバイに改名されました。

 ムンバイはインドの都市の中でももっとも西欧化している都市であり、ムンバイに住みたい人々も多いためか、ムンバイの土地代あるいは住居にかかる費用は、東京並み、いえある意味で東京以上に高い値段です。もちろん最近では他の都市にも存在しますが、ムンバイは初めてマクドナルドがインドに進出した都市でもあります。もちろん、インドは牛を神の化身として信仰するヒンドゥー教の国ですので、いかにマクドナルドといえども牛肉のハンバーガーは扱わず、また、インドには豚肉を食べることを禁じているイスラム教の人々も少なからず存在するため、全てがマトンを用いたハンバーガーだそうです。

 インドではムンバイやデリーといった最先端都市においても街中には牛がのんびりとたむろしています。そんなムンバイで本当に驚いたことには、一流ホテルのレストランに行けば牛肉のステーキなどを食べることができるのです。これには本当に驚きました。もちろん、インドにもキリスト教を信ずる人々もたくさん存在するので、これらの人々にとっては牛肉を食べることは宗教上何ら問題ありません。しかし、インドという国の社会通念としては、あるいは常に自分たちが過ごしている街中に牛がたくさんたむろしている環境からは、とても牛肉を食べる、という食習慣が生き残ることが出来るとは考えられませんでした。

 さてそのようなムンバイは港湾貿易都市として発展してきました。その港湾都市としての象徴がインド門(Indian Gate)です。昔はこの門を通って、船乗り達がアラビア海に乗り出していったのでしょう[左下写真]

ムンバイ港
ムンバイ港
タージ・ホテル
タージ・ホテル
インド海軍の航空母艦
インド海軍の航空母艦
ICICの招聘講演にて
ICICの招聘講演にて

ICICのFellow
ICICのFellow

 そのインド門のすぐ後ろに位置する壮大な建造物が、現在でも用いられているタージ・ホテルです[左上写真]

 今でも港湾貿易は盛んですが、ムンバイはまたインド海軍の拠点でもあります[左上写真]。なおこれらの写真は僕がIndian College of Interventional Cardiologyでの招待講演に招聘され[右上写真]に任命された時に、初めてムンバイを訪れた時に撮影した写真です。  今回はムンバイではこのタージとは別のタージ・ホテルに21:00過ぎにチェック・インしました。
Dalal先生ご夫妻と夕食
Dalal先生ご夫妻と
 そして、ホテル内にあるバイキング形式のレストランにおいて21:30からDalal先生ご夫妻と夕食をとりました[右写真]

 Dalal先生はこのムンバイにあるLilavati病院[左下写真]において循環器部長をされている先生です。

 Lilavati病院は、ムンバイ中心部に位置する私立病院でありここのお医者さんは欧米のようにそれぞれが独立した開業医であり、病院の施設・設備を借用して医療を行っています。競争も厳しく僕と夕食をとっている間も5分おきぐらいに病院や患者さんから電話がかかり、それに対応していました。僕はこの病院に昨年訪れ、TRIを導入してきました。病院間あるいは開業医の間の競争も厳しく、また日本のようには医療内容に関する宣伝に対する規制も存在しないために、患者さんにとって優しいTRIというのは患者さん拡大のための強力な武器になります。従って去年PCIをTRIにより行った後[左下写真]、テレビ、新聞あるいは有名雑誌のインタビューを受けました[下写真]
Lilavati病院
Lilavati病院
Lilavati病院でのPCI
Lilavati病院でのPCI
Lilavati病院でのPCI
Lilavati病院でのPCI
再びKrishna Heart Institute
Ahmedabad空港
Ahmedabad空港

Krishnaでの講義
Krishnaでの講義
 翌14日朝のムンバイ発のJet Air便によりアーマダバード(Ahmedabad)(地図の赤○)に入りました[右写真]

 そして、今回が4回目となるKrishna Heart Instituteに対する訪問をしました。今回は、ニューヨークからCoppola先生も訪れました。Coppola先生はニューヨークにおいてTRIを開始することによって、非常に厳しい病院間競争を勝ち抜きたい、との強いご希望の下に訪れました。

 John T. Coppola先生はニューヨークにあるSaint Vincent Catholic Medical Centersにおいてカテ室部長をされていると同時にNew York Medical Collegeの助教授もされております。僕は米国においてもTRIを普及させるための突破口にするつもりで彼を本年の鎌倉ライブデモンストレーションにFacultyとして招聘しています。

 そもそもこのSt Vincent病院にはインド出身の循環器医師も多く、彼らの何人かが出資してこのKrishna Heart Hospitalを設立しました。これは一種の投資ですので、彼らにしてみればいかにPatel先生を招聘したとしても、実際に患者さんがたくさん集まり、それなりに投資資金の回収がなされなければ大変なことになります。そこに僕がPatel先生を直接指導して、TRIを開始し、そしてそれを売り物にしたお陰で今やKrishna Heart Instituteにはたくさんの患者さんが全国より集まるようになりました。彼らは、このために僕に対して非常に感謝していました。しかし、それだけでなく、投資者としてもこの事実を冷静に見つめ、競争の激しいニューヨークにおいてもTRIは非常に強力な武器になり得る、という仮説の下にCoppola先生をKrishna Heart Centerに研修のために派遣されました。

 今回、Coppola先生は二回目の訪問だそうです。前回の訪問時にはただ挨拶程度だったようですが、今回は14日の金曜日から19日までの水曜日、Krishna Heart Centerに泊まり込みでTRIの実技指導を受けられました。

 僕自身は14日に4例のPCIを行って、実技披露を行いました。その日の遅い昼食時には色々な話を皆でしたのですが、その会話の中で、彼らがTRIに関してほとんど何も知らない、ということが分かりました。このため、翌15日には僕はTRIの基礎から、進んだ内容に関してまで講義を行いました[右上写真]

 Coppola先生は無事、ご自身の第一症例を難なくこなすことができました[下写真]
Coppola先生第一症例術中
Coppola先生第一症例術中
術中のシネ
術中のシネ

 Coppola先生は今回部下のTak W. Kwan(関 徳維)先生を連れてこられました。彼は25年前に香港からニューヨークに渡り医師になり、現在St Vincent病院で心臓カテーテル検査・PCIを行われています。ちなみに中国語ではSt Vincent病院は「聖雲仙」醫院と綴るようです。Coppola先生、Kwan先生と三人でその夜はPatel先生のご自宅にお邪魔して、22:00からの遅いディナーを戴きました。一般的にインドでは夕食は21:30頃から、昼食は14:30頃から食べる習慣のようです。従って、業務の朝開始時刻は早くなく、9:00am頃からのようです。

 そのディナーの間にCoppola先生方とアメリカにおけるPCIの真の現状について色々なお話を聞かせて頂きました。

薬剤溶出性ステント(DES)の米国での現状
 何と、FDAがCypherを認可してから現在は全PCIの75%の症例に対してCypherが用いられているということです。そして、St Vincent病院という名門病院においてですらCypherは供給不足に陥っていて、満足なサイズのステントを必ずしも植え込めない、ということです。そして、このことが最近のFDAの警告にもあるように、Cypher植え込み後にステント血栓症が発生している原因であろう、ということです。現在、bare metalステントは1,300~19,00US$だそうですが、Cypherに関しては3,500US$程度で販売されているそうです。政府償還保険ではCypherを用いた場合にはPCI手技料が通常よりも1,500US$高く償還されます。これですともしもCypher一つのみその患者さんに植え込んだ時には、病院はプラマイ・ゼロの収益となるそうです。しかし、現在一人の患者さんに対して植え込まれるステント個数は平均で1.6個なので、Cypherステントのお陰で全ての病院がPCIに関して赤字となっているそうです。このため、早くTAXUSがFDAより認可されることを全ての医師が願っているそうです。

 やはり他の国々でも同様のことを聞きましたが、Cypherを販売している某社営業員の態度に、アメリカでも皆が腹を立てているそうです。TAXUSのおおもとのExpressステントは、CypherのもととなっているVelocityステントよりもステント自身の性能としては、はるかに優れています。また、現在までに行われた大規模臨床試験においてもTAXUSの有効性はCypherに比して同等であることが証明されています。また、アメリカ以外の国々では既にTAXUSがCypherの2/3の価格で販売されています。これらのことから、特に営業員に対する反感からアメリカの医師は皆、「TAXUSが認可されたらば、即座にCypherの使用は止め、全てTAXUSにしてしまう」と考えているようです。きっとその日が来れば現在75%あるアメリカでのCypherステントのシェアは一日で限りなくゼロとなってしまうことでしょう。

 でもこれと全く同じストーリーが、かつてこの会社を巡っては展開されたそうです。それは、この会社がPalmaz-Schatzステントを販売し、全世界でほぼ100%のシェアをとり、高値で販売していた時代に、Multi-Linkステントが認可され、一日でそのシェアが0%近くになったそうです。

 それに比べてどうでしょう。この会社の日本法人に属している営業員は人格的にも優れた人々であり、そのように驕り高ぶっている人は誰一人いませんし、また不幸なことに現在日本では満足に販売する製品が認可されていないため、このようなことには日本ではならないと思います。もっと科学に基づいて患者さんのためになる選択がなされると思います。

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